雨月物語 〔菊花の約〕
よくよく考えてみたら、これまで生きて聞いて来た男性の声は殆どが、
怒声というか罵声であったような気がする。
縁の無い人には全然無いのかも知れず、そんな人がこれを読んだら、
「 え?そんなに男性を怒らせ続けて来たの?」 なんて感想を持たれて
しまいそうだが、そんな訳は無い。
生まれ育った環境が、「 男であれば怒っているもの 」 という風潮のある
ところであったというだけのお話だ。
別段怒らなければならないような事件も何も起きていなくとも、話し掛けた
のが女性であれば、取敢えず怒る。
たとえそれが自身にとって好都合な内容であっても、「 ニコニコしてやった
ら女どもが付け上がりくさる!」 という理由で、やはり怒るのである。
故に、
「 欲しい、言うたはった ○○、買 (こ) うといたよ!」
( 欲しがっていた○○、買っておきましたよ。)
「 アホがっ!しょうもないこと言うなっ!! ・・・ そか?」
( 馬鹿が。下らんこと言うな。 ・・・ そうか?」 )
・・・ などという会話が成立する。
機嫌が良くてこの程度だから、本当に怒っている時など目も当てられない
惨状で、それは想像に難くないにしても、普段の物言いも、やはり怒声で
ある。
ごくごく普通に会話をすれば良いものが、常に怒声を張り上げる。
部屋に入ってくるなり、開口一番、
「 アホがぁっ!窓開けんか、どアホッ!」
なんてのが、普通だった。
知らない人がこの部分だけ聞いたら、何度も促されていながら窓を開け
ずにいて、相手を苛立たせているように聞こえると思うが、これが最初の
要求であったりする。
つまり、自身の権力誇示のために、普段から怒声・罵声でしか話さないと
いうこと。
動物が威嚇しているのと同じ水準。
短かった結婚生活もこれで塗り潰されていたんだけれど、別にとんでも
ない男と結婚してしまったという訳でも何でもなかった。
自分自身が立派にこういう家庭に生まれていて、話し方も父親と同じだっ
たのだから。
そうしなくても生きられる男性ってのもいるんだなぁ、と生まれて初めて
思ったのが、当時 「 外国TV映画 」 と称して、今より頻繁にオンエアされ
ていた海外ドラマの中の男性だった。
男性も笑うのか ・・・ と驚いた。
本人たちもそれで楽しんでいる様子で、羨ましかった。
当時日本人全体の特徴として、「 女性の声が高く、男性の声が低い 」
というのがあった。
女性が阿り過ぎ、男性が威嚇を強調し続けるためにそうなっていたのだが、
洋画の場合、元の音声に釣られるのか、男性の声が一般に比べて、比較
的高かった。
愛川欽也さんなどが活躍していた頃で、聞いていると何となく気が休まっ
て幸せな気分になれたのを覚えている。
だからと言って、愛川さんに会いたいとか、サインが欲しいとかは全く思わ
なかった。
求めるほどじゃないが、声が聞こえると嬉しい ・・・ という程度。
所詮、声だけで、実益のあるものではなかったから、それはそういうもの
だったろう。
そのうち、アニメに良く出ていた、塩沢兼人さんという声優さんの作品を
好んで見るようになった。
やはり一般よりはちょっと高い声。
時々厳しくもなったが、その厳しさを怒鳴ったり、罵声を浴びせたりしなく
ても、理詰めで伝えられるのだ、と感じさせる喋り方をする。
そう言えばそうだ。
男に生まれたからといって、理詰めで説明して悪いってことなどある筈が
ない。言いたいことがあったら、脅すより先に説明とか説得をするという
ことも出来るんだな、と妙な感心の仕方をした。
この人は若死にで、2000年に亡くなってしまわれたが、結局、未だに
「 塩沢さんが生きてらしたら、この役は塩沢さんだったんだろうな!」
と思うような声優さんの作品を良く見ている。
( 要するに、「 美形悪役 」 の出来るような声が好き。)
暑くなる前に買って、強烈な夏バテを起こし、手付かずで放り出してあった
「 雨月物語 〜 菊花の約 〜 」、やっと梱包を解いて聞いた。
2005年11月リリース、再発売にしても 2007年6月であったことを考え
ると、何を今更という感じではあるんだけれど。
収録時間は 40分程度。
これで 3150円はぼったくり過ぎだと思うんだけれど、発売枚数を考える
と仕方ないんだろうか?
内容は完全な現代語訳。
でもまあ、人の台詞と状況の説明というか形容が綯い交ぜになる、古典
の特徴はそのまま残してあって、ある意味、趣きは有るのかも知れない。
でも、わたしが本当に好きな雨月物語は、蛇性の婬 (じゃせいのいん)
なんだけどなぁ!
まぁ、菊花の約 (ちぎり) も、元祖 BLもの ・・・ もとい、男の友情物語と
してそれなりに面白かった。